2016年2月10日水曜日

「大英帝国の人種・階級・性」を読んで


デイヴィッド・ダビディーン著(1987)、松村高夫・市橋秀夫訳 同文館(1992)
本書は、「W.ホガースにみる黒人の図像学」というサブタイトルの通り、18世紀のイギリスの画家であるホガースの絵画を通じて、18世紀のイギリス社会の歪みを描きだそうとするものです。ホガースは、貧しい家に生まれたため、幼い頃から銀細工師の徒弟として版画家の修行を積み、やがて油彩画を書くようになりますが、その絵を銅版画として労働者にも買える金額で売るようになり、これによって彼は成功します。17世紀までのイギリスは絵画不毛地帯といわれ、絵画の独自の発展がほとんど見られませんでしたが、ホガースによって初めて、イギリス風絵画が発展するようになったとされています。
 ホガースは、「当世風の結婚」シリーズが著名で、このほか「娼婦一代」、「放蕩息子一代」など連作物の版画を多数の残しており、本書では、100枚近いホガースの絵が掲載され、著者はこれを通して当時の社会を徹底的に風刺しています。「芸術における彼の洞察力は、商業主義によって損なわれた社会、すなわち金銭的取引だけの関係が人間の諸関係にとって代わっている社会にむけている。」また、しばしば絵には白人の引き立て役として黒人が書き込まれ、文明と野蛮が強調されますが、実は野蛮なのは黒人なのか白人なのかを問いかけています。虚飾に満ちた文明化された白人と、文明化されていない黒人との対比です。
 「黒人は、ホガースの作品では周辺的人物でありながらも、意味深長な細部描写である。……黒人は、上流階級の生活における性や文化や経済のあさましさについてのホガースによる暴露とつながりをもつ細部描写である。「残酷な光景」では、イングランド社会の残忍さが、アフリカ人やインディアンの「野蛮な」諸行為にてらして測られている。こうした習慣の中でホガースは、性の慣習、原始主義、類人猿祖先説といった黒人にまつわる当時の神話や常套句を意識的に用いて、イングランド貴族階級の道徳を論評した。黒人は論評のものさしとして用いられているが、同時にそのものさしは白人を打つ一本のスティックである。」そして著者は、大英帝国の持つ構造的矛盾生で言及します。

 私がこれら絵を観て、直ちに「なるほど」と理解することは困難ですが、本書の解説を読むと「なるほど」と納得できる内容でした。

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